ぎっくり腰

 

ぎっくり腰の原因と対策:現代医学と東洋医学の視点から

はじめに

「ぎっくり腰」とは、急激に腰に強い痛みが走る症状であり、正式な診断名ではなく俗称です。医学的には「急性腰痛症」と呼ばれ、動けないほどの激しい痛みによって、日常生活に大きな支障をきたします。多くの人が「突然起こるもの」と捉えていますが、実際には身体の内側に潜む問題が積み重なった結果として現れる“警告”のようなものです。本稿では、ぎっくり腰の原因と対策について、現代医学と東洋医学の両面から解説し、より根本的な理解と改善方法を提案します。


現代医学におけるぎっくり腰の原因と対策

現代医学においてぎっくり腰は、「筋・筋膜性腰痛」「椎間関節性腰痛」「仙腸関節障害」などに分類されます。原因の多くは、筋肉や靭帯、関節包などの軟部組織への急激な負荷による微細損傷であり、X線やMRIで明確な異常が見つからないことも少なくありません。

きっかけとしては、重い荷物を持ち上げたとき、腰をひねったとき、くしゃみや咳をしたときなどがありますが、こうした動作だけが原因ではありません。実際には、長時間の座り仕事、運動不足、姿勢不良、筋力低下、そしてストレスなどが背景にあることが多く、それらが腰部に慢性的な負担をかけている状態で、ある一瞬の動きが「最後の一押し」となって発症します。

対策としては、急性期(発症から2〜3日)は無理に動かさず、炎症を抑えるための安静とアイシングが基本です。その後、痛みが和らいできたら、徐々にストレッチや腰周りの筋肉を鍛える運動を取り入れていくことが大切です。また、予防として、体幹トレーニングや姿勢矯正、デスク環境の見直し、適切な睡眠姿勢の確保なども有効です。

現代医学では、必要に応じて痛み止めや筋弛緩薬、湿布、理学療法(物理療法・運動療法)を併用しますが、再発率が高いことも事実です。そのため、単に「痛みを抑える」ことにとどまらず、「なぜその人にぎっくり腰が起きたのか」を掘り下げて考えることが重要になります。


東洋医学におけるぎっくり腰の原因と対策

東洋医学では、ぎっくり腰は「腰痛」として扱われますが、その原因は単純な筋肉の損傷だけではなく、「気(エネルギー)・血(けつ)・水(すい)」の流れの停滞や偏りにあると考えられています。たとえば、気の流れが滞っていたり、血の巡りが悪かったり、寒湿(冷えと湿気)が体内に侵入していたりすることで、腰部の経絡に異常が生じ、痛みとして現れると捉えます。

代表的なパターンには以下のようなものがあります。
一つ目は「寒湿腰痛」で、冷えや湿気が原因となって腰の気血の流れが滞るタイプです。寒い季節や梅雨時期に悪化しやすく、動かすと痛みが強くなるのが特徴です。
二つ目は「瘀血(おけつ)腰痛」で、血の巡りが悪くなって老廃物が腰に滞り、鈍痛や慢性的な違和感を訴えるタイプです。外傷や過労がきっかけになることが多いです。
三つ目は「気虚腰痛」で、加齢や疲労などで体力(気)が消耗し、筋肉や腱を支える力が不足しているタイプです。動き始めに痛み、温めると楽になることが多く、中高年に多く見られます。

東洋医学の対策としては、まず「鍼灸」による経絡の調整が挙げられます。特に、腰部の「腎兪」「委中」「大腸兪」などのツボを用いて気血の巡りを促し、炎症を抑え、回復を早めます。また、「風門」や「命門」など、全身の気を整えるツボも併用し、体質改善を図ることも可能です。

さらに、漢方薬も体質に応じて処方されます。寒湿タイプには「独活寄生湯」、瘀血タイプには「桂枝茯苓丸」、気虚タイプには「八味地黄丸」などが使われることがあります。ただし、漢方薬は個々の体質や証(しょう)を見極めることが重要であり、専門家による処方が必要です。

加えて、呼吸法や気功、太極拳などの軽い運動も、体全体のエネルギー循環を高める手段として推奨されます。再発予防の観点では、過労を避け、冷えを防ぎ、ストレスをため込まない生活習慣を意識することが求められます。


統合的視点での考察

ぎっくり腰の本質は、「突然の出来事」ではなく、体が限界を超えて発した“最後の警告”です。現代医学では、筋骨格系の構造的・力学的要因を中心に対処し、東洋医学では、体の内側のエネルギーバランスや体質の問題として捉えます。どちらか一方ではなく、両者を組み合わせることで、より根本的で再発しにくい治療が可能になります。

たとえば、急性期は現代医学の対症療法で痛みを抑え、その後、東洋医学的な鍼灸や漢方で体質改善と再発予防を行うことで、腰痛を「繰り返さない身体」へと導くことができます。


おわりに

ぎっくり腰は誰にでも起こり得る身近な疾患でありながら、その背景には姿勢・筋力・生活習慣・体質といった多くの要因が関与しています。痛みが出たときの対処法だけでなく、「なぜ自分の腰が悲鳴を上げたのか」を振り返り、身体と向き合うきっかけにすることが、真の改善への第一歩です。現代医学と東洋医学の知恵を活かして、腰痛のない健やかな日々を目指しましょう。

著作者紹介

保田宏一、1960年生

1985年東京都立大学工学部工業化学科卒業。同年凸版印刷株式会社中央研究所入社、1988年東京工業大学院総合理工学研究科電子化学専攻山崎研究室に2年間国内留学。1991年ソニー株式会社総合研究所入社。以降光ディスクの研究開発に携わりブルーレイディスクの記録膜を開発した。1999年伯父の加島春来が色彩治療を開発した。色彩治療について研究するための医学知識を得るべく花田学園日本鍼灸理療専門学校にエンジニアをしながら3年間夜学に通い、2002年鍼灸師資格取得。2014年ブルーレイディスク研究開発終了したので、色彩治療の研究をするため青山色彩鍼灸院開院、現在に至る。趣味はエレキギター演奏で自称おしゃれなフュージョンギタリスト。

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